京都で過ごした学生時代 第1章

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「京都市左京区下鴨宮崎町54」

今でも40年近い前の下宿先住所がスラスラと出てくるのが自分でも面白い。
友達から毎週のように届く手紙には、この宛名が蒼い細書きのハッパフミフミパイロットで端正に書かれており、その文字を幾度となく眼で追った。

河原町から葵橋経由植物園行き5番電車「糺の森」電停から西に入ったところがここの住所。
友禅絵付け職人さん宅の二階が僕の下宿だった。
「ガラガラッ」と格子戸を開けると二間ほどの石畳があり、左に蹲(つくばい)、右におじさんの職場があり、京の町屋が奥に長く広がっていた。
ちょっと足の悪い友禅職人のおじさんは、朝から晩までいつもこの部屋で色付けをしていた。
小太りのおばさんは、優しい人で「noriさ~ん電話ですよ~」と2階に声をかけて気安く電話を取り次いでくれ、黒く重いダイヤル式の受話器の向こうから聞こえてくる彼女の声に一喜一憂したものだった。
それでも足りないときはレッドの大瓶に貯めた10円玉をジャラジャラとポケットに詰め込んで糺の森電停近くにある公衆電話ボックスに話しに行った。この公衆電話はたまに10円玉が一杯になりいくらでも話せる状態になった。

下宿の部屋は、2階に在る4部屋と一番広い六畳間をベニヤ板で仕切って二部屋にした合計6部屋で、最初ボクは仕切った部屋の奥のほうに下宿した。
隣に住んでいる産大の一回上級の人が、新聞を読んでいるか辞書か漫画なのか紙質で聞き分けることが出来た。
1階にあるトイレは大家さんと共同で2階には洗面台が一つあるだけ。
ここで水を汲み電気ポットで湯を沸かしチキンラーメンが主食の毎日だったがそれほど貧しいと思ったことは無かった。
仕送りが届いたときは奮発し隣の下鴨飯店でレバもやし定食と焼き餃子や洋食屋「のらくろ」でトルコライスを奮発した。
風呂は二日に一回の割合で、近所の風呂屋に行った。
かぐや姫の神田川じゃないけど風呂桶を抱えて通い、石鹸箱が本当にカタカタ鳴った。このころは洗髪料金は追加で払った。
パチンコで勝つとお風呂の帰りに赤提灯で大根のおでんとゴボ天で麦酒を一本飲むのがこの上ない贅沢だった。


つづく

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Commented by Sofia at 2010-10-21 23:14 x
あら~、先日行った下鴨神社のすぐそばなんですねぇ。
今度行く時、ちょっと回り道して 探してみよう^^。
Commented by pekebouzu at 2010-10-21 23:23
今となっては何もかもがいい思いですね・・・
大事とっておくために記録に残すのもいいですね!!
Commented by k7003 at 2010-10-22 00:54
待ってましたぁ! その2、その3・・・と、待ち遠しいぞ!
「電気ポッド」がなかっただけが違いの自分の青春がそのままによみがえってきます。(*^^)v
Commented by harasawa at 2010-10-22 06:45 x
待ちくたびれて・・・
写真入で見るとまた格別です。
洋食屋「のらくろ」って学生には上等なお店ですねぇ・・・。
Commented by scottts at 2010-10-22 08:54
そこまで印象がのこっているということは、noriさんにとってその時期がいかに大切な一ページだったかがよく分かります。
すばらしいことですねえ。 まだその頃の店などが残っているんですね。 わたしは赤い縞々の袋にはいった
日清の即席ラーメンをどんぶりに入れて水をひたしてまだかまだかと柔らかくなるのを待っていました。
ひまだったんですねえ。
Commented by yuhu811 at 2010-10-22 17:44
わ!面白い~^^
はっぱふみふみの蒼い文字ですかぁ。。。インクっていいですね。
匂いがあるもんねー。
続く第2章、愉しみ愉しみ。。。
Commented by nori at 2010-10-23 09:03 x
sofiaさん

早速のコメントありがとうございます。
はい、先日アップなさった下鴨神社を興味深く拝見しました。
ぜひ足を伸ばして、界隈の様子を教えて下さい。
Commented by nori at 2010-10-23 09:03 x
pekebouzuさん

本当に、大切なお宝のような思い出があって幸せな気持ちです。
手に取るように思い出されています。
PCやデジタルカメラはありませんでしたが、とってもいい時代だったと思います。
Commented by nori at 2010-10-23 09:04 x
NKさん

お待たせしました〜。
ゆっくりと掲載していきますのでお待ちください。
電気ポットと電器ポット少し悩んじゃいました。
Commented by nori at 2010-10-23 09:05 x
harasawaさん

ほんとうに、長いことお待たせしましたね。
3年越しかな^^
写真入り格別ですか?
嬉しい。
のらくろのマスターは、miniに乗っていて憧れていたのを思い出しました。
Commented by nori at 2010-10-23 09:05 x
scotttsさん

そうですね。
今の基礎がここで出来たと思うと感慨深いものがあります。
いまも、残っていると無くなったもの両方がありますが、変わらぬは賀茂の流れでしょうか(^_-)
赤い縞々よく覚えらっしゃいますね〜。
水だしラーメンですか^^
確かに時間はたっぷりありましたね。
Commented by nori at 2010-10-23 09:06 x
たーさん

文章表現のお上手なたーさんに面白く感じて頂いて
めちゃくちゃ嬉しいですぅ。
ハッパフミフミの革張りを買ってもらいました。
インクの手紙、メールじゃなくてね。
その箱一杯の手紙は何処に行ったのでしょうね。
次作もご期待ください。
Commented by 【ぴ♪】゚Θ。)~チロッ♪ at 2010-10-24 09:59 x
うひょぉっっ・・・ヾ(・´Θ`・*)ノ

noriさま♪一大スペクタクル大巨編!これ 日本語か??ヾ(≧∀≦*) な 京都物語が 始まってましたの(●´艸`)( ´艸`○)ネェー❤

あぁぁぁ。。。ちょっと ここに 栞はさんでおかなくちゃ!
(o'Θ'o)ノ ◇ ほぃっ♪

下宿って したことないし…うちのそばから 離れたことがない
σ(*・Θ・ぴ)あたし♪には すんごぉぉ~っく 魅力的なお話なのですっっっ!
((o(*^Θ^*)o))ワクワク...♡
Commented by nori at 2010-10-24 10:38 x
ぴょこたん♪

ごめん、先にはじめてしまっていたのだ。
京都の昔話、もう少し続きます。
栞了解ですよ。
続きはいつでも観に来てくださいね。
ありがとう。
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by dukesaloon | 2010-10-22 00:06 | 京都で過ごした学生時代 | Comments(14)

撮影 小野典生


by nori